脳血管疾患は日本の死因統計では、がん・心疾患に続いて3位となっている(2017年のデータ)
4位が老衰で少し前まで3位だった肺炎は5位
脳血管疾患を分けると脳血管が詰まって脳に血液が行き渡らない"脳梗塞"と脳動脈瘤の破裂などで脳内に出血する"脳出血"がある
脳梗塞が脳出血よりも患者が多い
起こる症状は虚血・出血に関わらず、障害された脳の部位(右側 or 左側、前頭葉・側頭葉・後頭葉など)による
[脳梗塞]
脳血栓と脳塞栓に分類される
脳血栓は安静時に発生し、症状が徐々に増悪して数時間から数日のうちに完成する
脳塞栓は活動時に急に発生し、数分で症状が完成する特徴がある
1.アテローム血栓性脳梗塞
脳の主要な太い血管や分枝する血管に血栓が詰まって起こる
太い血管に血栓が蓄積することから、急激に悪くなるよりも前触れ症状として数分間片麻痺が起こって回復することがある(一過性脳虚血発作・TIA)
TIAは脳梗塞へ移行する危険が高いため、病院でCT検査をすることを推奨します
2.ラクナ梗塞
脳内の細い血管(穿通枝動脈)が詰まる脳梗塞をいう
一箇所の塞栓では迂回路の血管で補うことができる場合が多く、無症状のことが多い
高血圧と糖尿病は危険因子であり、局所の血管が詰まって他の血管に負荷がかかるため、動脈硬化がみられるこれらの疾患がある方は要注意である
脳梗塞の発症血管と症状
a) 内頚動脈の閉塞
左側の障害の場合、右側の麻痺、観念運動性失行(*1)、観念性失行(*2)、失語がみられる
*1:支持されたジェスチャーができない(ex:ピースサインをしてください→✗)
*2:使い慣れている道具の使い方がわからない(ex:歯磨きをしてください→✗)
b) 前大脳動脈の閉塞
反対側の下肢に強い麻痺、感覚障害がみられる
c) 中大脳動脈の閉塞
反対側の片麻痺、優位半球では失語、失行、ゲルストマン症候群(*3)がみられる
右側の頭頂葉の障害では着衣失行(*4)がみられる
*3:手指失認、左右失認、失書、失算を呈する
*4:服を自分で着ることができない
d) 後大脳動脈の閉塞
反対側の同名半盲の他、記憶障害などがみられる
e) 椎骨脳底動脈の閉塞
意識障害、回転性めまい、同名半盲、眼振、運動失調などがみられる
小さい血栓が詰まることで一過性脳虚血発作(TIA)が起こるが、特徴としてしびれや運動・感覚麻痺症状の他、一過性黒内障(*5)がみられる
*5:血栓で血流が網膜に行き渡らず、血栓が溶けるまでの間一時的に眼の前が真っ暗になったように感じること。一時的な失明状態となる
[脳出血]
脳出血とクモ膜下出血に分類される
どちらも日中活動中に突然発症し、頭痛があり意識がもうろうとする
脳出血は脳内部に出血が起こり、出血部位によって特徴的な所見がみられる
クモ膜下出血は脳表面の血管が破れてクモ膜下腔に出血が広がる
脳出血の種類と症状
出血が起こる脳の部位で以下の分類ができる
頭部CTにより診断するが、眼球に特徴的な所見が現れるので目の症状を観察することで判断することも可能
a) 被殻出血
大脳基底核の被殻に出血が起こる
被殻のレンズ核線条体動脈から出血する
眼球は患側へ共同偏視(両目が同じ方を向く)
障害側と反対側の片麻痺・感覚麻痺
優位半球(左側)の障害で失語、非優位半球(右側)の障害で各種失行、失認など
b) 視床出血
間脳の視床に出血が起こる
後大脳動脈の枝(視床膝状体動脈、視床穿通動脈)から出血する
眼球は鼻先を見る(内下方偏位)
障害側と反対側の片麻痺・感覚麻痺
優位半球(左側)の障害で失語
c) 橋(脳幹)出血
脳幹の橋に出血が起こる
橋には排尿中枢、橋の上には中脳(姿勢反射中枢)、下に延髄(呼吸中枢、循環中枢、消化の中枢など)があり、出血量が多いと昏睡状態となる
眼球は縮瞳、正中位固定、垂直眼振となる
障害側と反対側の片麻痺・感覚麻痺、出血が多い場合四肢麻痺となる
d) 小脳出血
後頭部にある小脳に出血が起こる
吐き気や回転性めまい、運動失調が特徴的である
眼球は健側へ共同偏視、水平眼振
e) 脳葉(皮質下)出血
大脳皮質下(白質)に出血が起こる
動脈が異常な血管の塊を通って毛細血管を介さずに直接静脈へ繋がっている脳動静脈奇形(AVM)がひとつの原因である
出血部位は前頭葉・頭頂葉・側頭葉・後頭葉と多岐にわたり、障害部位で症状は異なる
高血圧は血管にかかる負荷が高く脳出血の原因となり、被殻出血は高血圧性脳出血の中で一番が多い
クモ膜下出血
ほとんどの原因が脳動脈瘤破裂である。他にはAVMも原因になりうる
脳動脈瘤は前交通動脈瘤・内頸動脈瘤に多発する傾向がある
特徴的な症状として、突然バットで後頭部を殴られたような激しい痛みがある
脳出血とは違い片麻痺の症状は出現しないことが多い
髄膜刺激症状(項部硬直*6・ケルニッヒ徴候*7・ブルジンスキー徴候*8)がみられる
*6:後頭部の筋肉が持続的に緊張し痛みが生じる
*7:仰臥位で股関節と膝関節を90°曲げた状態から膝を伸ばすと痛みが生じる
*8:仰臥位で片手で後頭部を持ち頭部を前屈させたとき伸ばしていた股関節と膝が自動的に曲がってくる
<クモ膜下出血の3大合併症>
・再出血:適切な治療を受けなかった場合24時間以内に30%の確率で再び出血を起こす
・脳血管痙縮:8〜2・3週間でみられ、脳血管が縮んで血液の流れが悪くなる
・正常圧水頭症:数週間〜数カ月でみられ、脳幹の脳室内に過剰な脳脊髄液が溜まってしまうことで起こる